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静岡地方裁判所富士支部 平成2年(ヨ)25号 決定 1990年6月26日

債権者 深澤儀一 外一〇名

債権者ら代理人弁護士 渡辺正臣

債務者 富士宮市農業協同組合

右代表者理事 竹川瑞馬

債務者 竹川瑞馬

債務者ら代理人弁護士 高城俊郎

同 鈴木徹

同 古内眞也

主文

一  本件申請を却下する。

二  申請費用は債権者らの負担とする。

理由

第一当事者の求めた裁判

一  申請の趣旨

債権者らからの富士宮市農業協同組合に対する理事会決議無効確認訴訟の判決確定に至るまで、

1  債務者竹川瑞馬は、富士宮市農業協同組合の組合長の職務を執行してはならない。

2  債務者富士宮市農業協同組合(以下、債務者組合という。)は、債務者竹川瑞馬に右職務を執行させてはならない。

3  右職務執行停止期間中、裁判所の選任する者を債務者組合の組合長の職務代行者に選任する。

二  申請の趣旨に対する答弁

本件申請を却下する。

第二当裁判所の判断

一  本件申請の実情は、要旨次のとおりである。

1  債権者らはいずれも債務者組合の理事である。

2  平成二年四月二七日開催の債務者組合理事会(以下、本件理事会という。)において、債務者竹川瑞馬を推すグループは、突如起立議決の方法で債務者組合新組合長に債務者竹川瑞馬を選任したと称している。

3  しかしながら、右決議には次のような瑕疵があって無効である。

すなわち、

(1)  本件理事会に先だってその前日開催された債務者組合の総会に代わる総代会(以下、本件総代会という。)において、本件理事会における組合長選任議決は無記名投票の方法によるべしとの動議が可決された。

(2)  ところで、農業協同組合法(以下、法という。)四一条で準用する民法五三条後段によれば、理事は総会の決議に従わなければならない旨規定されており、かつ、農業協同組合にあっては、総会(あるいはこれに代わる総代会)は定款又は規約に反しない限り当該組合に関する一切の事項について議決できるものと解されるところ、債務者組合定款・規約には組合長選任議決の方法につき格別の定めがないから、本件理事会における組合長選任にあたり、債務者組合理事らが本件総代会の右決議に拘束されるべきことは当然である。また、その決議内容は、組合役員選挙につき無記名投票の方法によるべき旨の原則を定めた法三〇条の精神に沿うものである上、そもそも、かかる決議が採択された理由は、組合長選任議決をめぐり、組合理事らの間に対立関係が表面化して組合運営にも支障が生じかねない事態になることを憂慮した代議員らが、かかる事態を避けようとの総意を表明したものであるから、本件理事会が本件総代会の決議を無視しなければならない実質的な理由はいささかもないものである。

(3)  従って、前記2の本件理事会における組合長選任決議は、法四一条の準用する民法五三条後段に違反し、かつ、組合民主主義に反するものであって、無効であることが明らかである。

4  そして、無効な組合長選任議決に基づく債務者竹川瑞馬によって組合の目的活動が行われるときは、組合は対内的・対外的に不測の損害を蒙る虞があるので、債権者らはその損害又は急迫なる強暴を防ぐため本申請に及んだ。

二  そこで判断するに、債務者組合の定款には、組合長は理事会において議決により選任する旨が規定されているが、その議決方法について定款・規約に明文の規定がないことは、疏明資料によって明らかである。たしかに、法四一条の準用する民法五三条後段によって、農業協同組合理事会は総会(あるいは総会に代わる総代会)の決議に従わなければならない旨規定され、また商法二三〇条ノ一〇の如き規定はないから、総会(あるいは総会に代わる総代会)は定款・規約に違反しない限り組合に関する一切の事項につき決議できるものと解される。しかしながら、定款で組合の機関として理事会が設けられ、これに一定の権限を与えていることからいって、定款に特段の定めがない以上、右権限内の事項につき理事会が会議体として意思決定する場合には、採決方法その他議事運営上の事柄について理事会がその固有の権限として自主的に決定すべきものとするのが、定款の趣旨と解すべきである。従って、理事会の組合長選任決議の議決方法に関する債権者ら主張の本件総代会の決議は理事会を拘束するものではないというべきである(従って、本件総代会の右決議は理事会を拘束しないという意味で無効である。)。そうしないと、他律的に定められた議決方法の如何によって、理事会の決議が左右される可能性も否定しがたく、組合長選任が理事会の権限とされた趣旨が没却される虞なしとしない(本件紛争自体、無記名投票の方法によらなければ自由な意思が表明されないと考える債権者側と、無記名投票の方法によった場合かえって無責任な議決が行われる虞があると考える債務者側との争いという側面もある。そして、当該理事会においてそのいずれの論理が具体的に妥当するかは、定款に特段の定めがない以上、準委任に基づき組合に対して善良な管理者としての義務を負担する各理事が、その責任の自覚のもと自ら判断・決定すべき事柄であり、そうすることこそがその責任を全うする所以であると考えられる。)。そして、<証拠>によれば、本件理事会において、組合長選任の議決方法として指名推薦に基づいてその賛否を問う方法によることを、これまで理事会が採ってきた通常の採決方法である起立による賛否表明の方法で可決した後、その採択された議決方法に基づき組合長選任決議を行ったことが一応認められる(<証拠>のうち右認定に反する趣旨の部分は採用しない。)から、本件理事会の組合長選任決議が法四一条の準用する民法五三条後段に違反し無効であるということはできず、定款の趣旨が前記のとおりであると解される以上、本件組合長選任決議をもって組合民主主義に反するということも早計にすぎよう。その他本件組合長選任決議が無効であると断ずべき根拠は認められない。

三  そうすると、他の争点について判断するまでもなく、本件申請は結局被保全権利の疏明がないことに帰し、保証を立てさせて疏明に代えることも相当でないので、本件申請を却下することとし、申請費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 高橋勝男)

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